ハイブリッドロケットとは
ハイブリッドロケットとは,相の異なる2種類の推進剤からなるロケットエンジンシステムであり,主に固体の燃料と液体の酸化剤を燃焼させて推力を得ます.燃料と酸化剤が自然に混ざり合うことがないため,爆発の危険性がなく安全なロケットです.
ハイブリッドロケットの長所としては、
- 「高安全性と低コスト」: 爆発の危険性が少ないため,取り扱いや管理が容易
- 「燃焼制御の高機能性」: 燃焼中断・再着火が容易なうえ,酸化剤の供給量を変えるだけで推力制御が可能
- 「簡易なシステム」: 液体は酸化剤のみであり,液体ロケットのように構造が複雑でない
などが挙げられます。
ハイブリッドロケットの短所としては,
- 「燃焼効率が低い」
- 「燃焼後退速度が小さい」
- 「燃料と酸化剤の混合比(O/F)の変化」
などが挙げられます。
A-SOFT(強化可変酸化剤流旋回型)ハイブリッドロケット
A-SOFTは上記のハイブリッドロケットの短所を解決するためのシステムであり,旋回流と軸流の2種類のインジェクタを持たせ,流量を独立に制御します。
酸化剤を旋回流で吹き付け,火炎面を固体燃料に近づけることで,燃料後退速度を増加させます.さらに,2種類の流量を独立に制御することで,燃料/酸化剤の混合比(O/F)と推力を同時に制御することが可能になります.
A-SOFTハイブリッドロケットの基礎研究
[液体酸素の熱伝達特性計測実験]
A-SOFTにおいて,高強度の旋回流を噴射するには,液体ではなく気体の酸化剤を使用する必要があります.そこで,液体の酸化剤をノズル壁面に流してノズルを冷却しながら,酸化剤を気化させるという,再生冷却式気化ノズルが考案されました.
再生冷却気化ノズルの冷却流路は、細管、亜臨界圧力、高熱流束、二相流といった複雑な条件を考慮する必要があります。
相変化を伴う酸素の正確な熱伝達の予測が必要ですが、冷却流路の条件に適用できる酸素の熱伝達式は未だ確立されていません。
そのため、本研究室では冷却流路に関しての酸素の伝熱現象を解明し、再生冷却気化ノズルの設計に適用できる熱伝達式の確立を目指しています。

[ハイブリッドロケットの推力制御システムの研究開発]
ハイブリッドロケットは、エンジン燃焼中に燃料の形状が変化することから、時間経過によって酸化剤と燃料の質量比(O/F)が変化し、燃焼状態が安定しないという問題点があります。この問題の解決方法として、エンジンに流し入れる酸化剤を旋回流と軸流の2種類の流れを使い、この流量を独立に制御することで、燃焼状態を安定させることが考えられています。
本研究室では、流量制御の制御プロセスの確立と、実験による検証を行うことで、A-SOFTハイブリッドロケットに必要な流量制御の技術を確立することを目指して、研究を進めています。
[燃料後退速度に対する噴射された酸化剤の温度の影響]
燃焼によるノズルの熱を利用して液体酸化剤を気化して利用する「再生冷却式気化ノズル」では酸化剤の温度は刻一刻と変化します。そこで、ロケットエンジンの燃焼性能を左右する単位時間当たりの燃料消費量が、供給される酸化剤の温度や流れの旋回強度によってどう変化するかを明らかにすることを目的とした研究を行っています。この燃料消費量を「燃料後退速度」と言います。
燃焼実験では供給する酸化剤の温度や流量を調整した後、燃料の質量を計測することで酸化剤の温度や流量と燃料後退速度の相関を得ることが出来ます。
今後は実験条件を変えながらさらにデータを取得すると共に燃料後退速度の予測式の構築を行い、再生冷却式気化ノズル実現に向けた歩みを進めていきます。
[ハイブリッドロケットエンジンの点火に関する研究]
ハイブリッドロケットの点火には火薬やスパークなど様々な方式がありますが、本研究室ではニクロム線による点火方式を採用しています。特に火薬による点火方式ではハイブリッドロケットの「本質的に非爆発性」という大きなメリットを著しく損なうため、ニクロム線にが適していると考えています。
燃料への接着方法は、接着剤自体も燃料となるエポキシ樹脂を使用しています。ニクロム線の点火手順は、以下のようになっています。
1.ニクロム線に通電し、燃料が気化し着火する。
2.点火用の気体酸素で火炎を拡大させる。
3.燃焼用の気体酸素を流し燃焼を開始させる。
現在の問題として、燃焼用気体酸素の流量が増えると火炎が消えてしまい燃焼が始まらないという問題が確認されています。この問題を解決するために、酸素を流す前の火炎の広がり方や確実な着火が可能な条件を特定するなどのステップを踏み、解決につなげたいと考えています。